あるいは本でいっぱいの海

Or All the Seas With Books

主に書評ブログ。本、音楽、映画について書きます。

本-小説

サバイバル小説2020(『日本沈没2020』原作:小松左京、ノベライズ:吉高寿男)

文春文庫出版の、Netflixのアニメ「日本沈没2020」の小説版です。原作は小松左京の代表作「日本沈没」であり、物語の舞台を現代に移してのリメイク版だと思い読んでみました。 本屋でふと見かけて購入した時点では、日本沈没がアニメ化していることを知らず…

逆未知との遭遇(『もたらされた文明』星新一)

「悪魔のいる天国」(新潮文庫)収録のショートショート。 舞台はとある星・ピル星。調査隊を乗せたロケットがついに帰ってきました。予定よりも遅くなった調査隊の帰還を、ピル星の住民たちはを固唾を飲んで見守ります。乗員たちの努力の結果、ロケットは無…

喉元過ぎれば(『味ラジオ』星新一)

「妄想銀行」(新潮文庫)収録のショートショート。 放送局から配信される特殊な電波によって口の中の神経を刺激することで、 味のしないものを食べているときにも、様々な味を人々にもたらしてくれる「味ラジオ」。 テレビやラジオの番組表のように、スケジ…

収束の日はいつか(『復活の日』小松左京)

連日ニュースとなっている新型コロナウイルスによるパンデミック。個人ではできる限りの情報収拾と対策はしているつもりですが、罹患するのも時間の問題なのかと不安な気持ちが日に日に強くなっています。 こんな状況で思い出すのは、ハルキ文庫出版の小松左…

目的を探す旅(『或る「小倉日記」伝』松本清張)

松本清張の短編集『或る「小倉日記」伝』(新潮文庫)の表題作であり、芥川賞受賞作です。 北九州の小倉(こくら)を舞台に、主人公である田上(たがみ)耕作が、森鴎外が小倉に住んでいた3年間を記した「小倉日記」を探し求めた一生を描いた小説です。タイ…

ボコノン教入門書(『猫のゆりかご』カート・ヴォネガット・ジュニア)

ハヤカワ文庫出版のカート・ヴォネガット・ジュニアの長編です。主人公・ジョーナがボコノン教という架空の宗教に入信する道のりを描いた物語です。 あらすじ 主人公・ジョーナは『世界が終末をむかえた日』という原子爆弾が日本に落とされた日についてのノ…

インコデトックス(『肩の上の秘書』星新一)

星新一『ボッコちゃん』(新潮文庫)収録のショートショートです。 あらすじ セールスマン・ゼーム氏は、夕方会社に戻る前に、もう一軒飛び入り営業に行くことにしました。彼の右肩には美しい翼を持ったインコがとまっています。肩の上にインコをとめている…

砂の流れに身をまかせる(『砂の女』安部公房)

安部公房の代表作、『砂の女』(新潮文庫)。 昆虫採集のためにとある海辺の砂丘に訪れた主人公が、女一人が住む、大きな砂穴の中の家に閉じ込められるという話です。主人公は必死で逃げ出そうと試行錯誤するもののことごとく失敗します。 せっせと砂かきを…

愛と麻薬の違い(『スキャナー・ダークリー』フィリップ・K・ディック)

ハヤカワ文庫出版のフィリップ・K・ディックの長編SF小説。表紙の画像は旧版のものです。 ディックの最高傑作とも呼ばれるこの小説では、ドラッグに溺れる人々と彼らを監視する麻薬捜査官たちが描かれています。 この小説の特殊なところは、ドラッグに溺れる…

2018年の終わりに(『九年目の終わりに』レイ・ブラッドベリ)

ブラッドベリ「瞬きよりも速く」収録の短編です。 ある日、妻が夫に向かって「9年の月日が経ち、体中の全ての細胞が入れ替わった。私はもう別人だから、旅に出るわ」と言い、行くあてもなく家を出ようとする。 「それは離婚したいということなのかい?」夫は…

犬は勘定外 感想 英国的ユーモア(『ボートの三人男』ジェローム・K・ジェローム)

「ボートの三人男」ジェローム・K・ジェローム、丸谷才一訳(中公文庫)です。表紙には書かれていませんが、「犬は勘定に入れません」という副題を持っています。 本作のオマージュ作品、コニー・ウィリス「犬は勘定に入れませんーあるいは、消えたヴィクト…

沼地に咲く花のように(『沈黙』遠藤周作)

新潮文庫出版の、遠藤周作の長編小説です。世界文化遺産に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が登録されたことがきっかけで読んでみました。 あらすじ 史実に基づいて創作された小説であり、島原の乱後に日本に訪れた、ポルトガル人司祭の運命を描…

古代生物のジレンマ(『霧笛』レイ・ブラッドベリ)

ブラッドベリの短編集『太陽の黄金の林檎』(ハヤカワ文庫)に収録されている短編です。 灯台守である「ぼく」と灯台守の先輩・マックダンが体験した不思議な夜の出来事を描いています。 霧笛(むてき)とは、霧が深く視界が悪い時に、船が衝突しないよう音…

良薬と毒薬(『海と毒薬』遠藤周作)

第二次世界大戦末期の、九州大学付属病院で米軍捕虜を実験材料とした生体解剖事件を題材にした小説です。 小説中では匿名で書かれていますが、夢野久作の『ドグラ・マグラ』の舞台でもありますね。 戦時中、実際に起きた悲惨な事件を題材としているものの、…

それなら僕はやったかもしれない(『審判』フランツ・カフカ)

岩波文庫出版の、フランツ・カフカの長編です。光文社古典新訳文庫では『訴訟』というタイトルで出版されています。私は岩波の『審判』しか読んでいないのですが、タイトルが違うだけでも全く違う作品のようですね。『審判』だと、主人公が裁かれることが前…

ストレスの向先について(『ごきげん保険』星新一)

「妖精配給会社」(新潮文庫)収録のショートショート。どんなに些細なことにでも不満を感じたと電話をするだけで保険金が下りてくる「万能生活保険会社」。そんなサービスに夢中になっているエヌ氏という男の話です。 一つの電話につき、いくら保険金がもら…

ホトトギスの空(『坂の上の雲』司馬遼太郎)

まことに小さな国が、開化期をむかえようとしてる。 文春文庫出版の全8巻からなる大作であり、司馬遼太郎の代表作。明治維新から日清戦争、日露戦争までを描く長編歴史小説です。 物語の中盤以降は全て日露戦争についての描写であり、登場するあらゆる人物や…

マクスウェルの天使(『ユービック』フィリップ・K・ディック)

ハヤカワ文庫出版のフィリップ・K・ディックの長編SF小説。 この物語は、ディック作品お馴染みの予知能力者(プレコグ)やテレパシー能力者といった超能力者サイドと、それらをを打ち消す力を持つ不活性者たちの対立が続いている時代の話です。 そして、この…

恐怖!精神病院(『ドグラ・マグラ』夢野久作)

『ドグラ・マグラ』夢野久作(角川文庫) 気軽には手を出せないような禍々しい表紙をしています。読者が表紙を見て選ぶのではなく、表紙が読者を選んでいるようです。果たしてこの本を売りたいのか売りたくないのか...地元の大きめの本屋に行くと、文庫本コ…

ポスト2045年問題(『過渡期の混乱』星新一)

「さまざまな迷路」(新潮文庫)収録のショートショートです。タイトルからも分かるように、何か新しいものが生まれることで生じる、人々の混乱の様子を描いています。 いつのころからか、街頭にキャンディー売りロボットがあらわれるようになった。 という…

簡単そうで難しい問題(『恐竜のほかに、大きくなったら何になりたい?』レイ・ブラッドベリ)

「恐竜物語」レイ・ブラッドベリ(新潮文庫)に収録されている短編小説です。それにしても、何て素晴らしいタイトルなんでしょう(笑) 主人公のベンジャミン・スポールディングは恐竜が大好きな12歳の少年です。友達に「大きくなったら何になりたい?」と聞…

解なしという答え(『冷たい方程式』トム・ゴドウィン)

「冷たい方程式」トム・ゴドウィン他 (ハヤカワ文庫)に収録されている短編小説。その異様なタイトル通り、宇宙船で展開されるなんとも悲しく、残酷な物語です。 一人用の宇宙船に一人のパイロットが乗っているはずでした。彼は熱病で苦しむ6人の仲間を救う…

ウェンディの夢の国(『ピーターパンの島』星新一)

『悪魔のいる天国』(新潮文庫)収録のショートショートです。ウェンディという女の子が主役であり、ピーターパンの島というタイトルはその名の通りネバーランドを連想させます。 以下は簡単なあらすじです。 ウェンディは海賊船に乗っています。同じ船に乗…

カンガルーにうってつけの日(『カンガルー日和』村上春樹)

聞くところによると、今の高校の教科書には村上春樹の小説が載っているんですね。偶然機会があって、なんとこの「カンガルー日和」が掲載されていることを知りました。 教科書に載せて学校の授業で扱う以上、試験をする必要が出てきます。ということは、その…

Life Is an Open Door(『掟の門』フランツ・カフカ)

『カフカ短編集』(岩波文庫)に収録されている短編です。たった4ページの物語ですが、寓意性が高く様々な解釈ができます。 あらすじは以下になります。 掟の門前に門番が立っていた。一人の男がやって来て、入れてくれ、と言うが、門番は今はダメだという。 …

奇妙な親孝行(『二人がここにいる不思議』レイ・ブラッドベリ)

ブラッドベリの短編集『二人がここにいる不思議』(新潮文庫)の表題作です。 恋愛小説を思わせるような美しいタイトルですが、この物語における「二人」とは主人公の両親のことです。主人公の「おれ」が、既に亡くなっている両親をレストランに招待する話な…

心の崩壊と宇宙の誕生(『ゴルディアスの結び目』小松左京)

この小説のタイトルであり、重要なモチーフである「ゴルディアスの結び目」とは下記のような意味を持つそうです。

毒虫になった男の話(『変身』フランツ・カフカ)

ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫になっているのを発見した。 この有名な出だしから始まる小説はフランツ・カフカの『変身』です。

真の冒険家の話(『緑の扉』O・ヘンリ)

「緑の扉」はO・ヘンリ作の13ページ(新潮文庫 O・ヘンリ短編集(一) 大久保康雄訳より )の短編で、「真の冒険家」ルドルフ・スナイダーの物語です。 冒険家とは言っても、大海原を航海するでもなければ、人類未踏の地へ行くわけでもありません。彼の冒険の舞…

人間とは何か(『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック)

映画「ブレードランナー」の原作である、フィリップ・K・ディックの長編SF小説。 まず特筆すべきなのは、そのタイトルの素晴らしさ!ディック作品では「流れよわが涙、と警官は言った」と並ぶ良タイトルだと勝手に思っています。SF作品、その中でも海外の作…