あるいは本でいっぱいの海

Or All the Seas With Books

主に書評ブログ。本、音楽、映画について書きます。

2018年の終わりに(『九年目の終わりに』レイ・ブラッドベリ)

 

ブラッドベリ「瞬きよりも速く」収録の短編です。

 

 ある日、妻が夫に向かって「9年の月日が経ち、体中の全ての細胞が入れ替わった。私はもう別人だから、旅に出るわ」と言い、行くあてもなく家を出ようとする。
 「それは離婚したいということなのかい?」夫は驚いて妻に尋ねる。「それとも、新しい男ができたのか?」
 「そうじゃないわ。でも私はあなたと結婚していた妻とは別の人間なんだから、この家から出て新しい人を探すの」
 夫は困ってしまった。そこで、彼は考えこう言った。
「実は今日は俺も9年目で、新しく君と結婚したいと思っているんだ」
「いいわ。そうしましょう」

 

9ページで終わるだけあって、話はこれでおしまい。夫婦間のナンセンスな会話が続きます。村上春樹作品でもよくあるような、ある日急に(少なくとも主人公にとっては)恋人が心変わりをしてしまう話。ブラッドベリの中でも個人的には好きなタイプの短編です。

 

「砂山のパラドックス」という思考実験があります。

次の前提のもと、砂山から砂粒を一つずつ取り除いていくとします。

 

前提1:砂山は膨大な数の砂粒からできている

前提2:砂山から一粒の砂を取り除いても、それは依然として砂山のままである

 

数回、数十回繰り返したところで砂山には何の変化も見られないことでしょう。 しかし、この操作を無限に繰り返していくとどうでしょうか。やがて砂山は小さくなり、最後の一粒となることは明らかです。それはつまり、前提2と矛盾することを意味します。

 

このパラドックスの原因は、砂山の定義が明確でない(あるいは定めることができない)ところにあるようです。

 

これは多くの物事に当てはまることだと思います。人の気持ちなんて、本人にもわからない時だってあります。

 

 2018年も残りわずか。1歳年をとったり、2018年から2019年に変わったたりしたからといって、その瞬間に何かが急激に変わることはないと思います。どちらかと言うと、後になって初めて変化に気づくことの方が多い気がします。

 

結局、捉え方次第なのかもしれません。何はともあれ、来年も良い年になりますように。