あるいは本でいっぱいの海

Or All the Seas With Books

主に書評ブログ。本、音楽、映画について書きます。

喉元過ぎれば(『味ラジオ』星新一)

「妄想銀行」(新潮文庫)収録のショートショート

放送局から配信される特殊な電波によって口の中の神経を刺激することで、 味のしないものを食べているときにも、様々な味を人々にもたらしてくれる「味ラジオ」。

テレビやラジオの番組表のように、スケジュールに沿って配信される味も切り替わります。味については不自由のないため、栄養を摂取するための食事と、味を楽しむための食事は切り離されています。人々は、栄養の摂取は味のしないパンを食べることで補います。

 

味ラジオで味わった料理の「本物」を飲食するためのレストランもまだ残ってはいます。しかしそれは、本物の食感や気になった味の実物を食べてみたい、という好奇心を満たすための位置付けです。

 

誰もが当たり前のように配信されるいろんな味を楽しんでいる際中に、ある異変が起こりました。なんの味もしなくなったのです...

 

「味ラジオ」という一種のインフラが失われた時やその復旧後、人々にどんな影響が生じるのか。

 

気軽に電車に乗ったり外食したりなど、今まで当たり前だったこともできなくなった今日ですが、元の生活に戻った時はどうなるのかは気になります。元に戻るのがいつで、そもそも以前と全く同じ状態に戻ることができるのかどうかはわかりませんが。。

 

味ラジオの便利さと相まって、作中の「異変」後の描写には怖さを感じます。「味」でないにせよ、なくなった時作中と同じ状況になるものはたくさんあり、これからもきっと増えていくに違いありません。