あるいは本でいっぱいの海

Or All the Seas With Books

主に書評ブログ。本、音楽、映画について書きます。

奇妙な親孝行(『二人がここにいる不思議』レイ・ブラッドベリ)

 ブラッドベリの短編集『二人がここにいる不思議』(新潮文庫)の表題作です。

 恋愛小説を思わせるような美しいタイトルですが、この物語における「二人」とは主人公の両親のことです。主人公の「おれ」が、既に亡くなっている両親をレストランに招待する話なのです。

 主人公とその両親は、久しぶりに会うにも関わらず、感動の再会といった感じではありません。それどころか妙に会話にぎこちなさがあります。

 

 

 原題は"I Suppose You Are Wondering Why We Are Here ?(「なぜわたしらがここに来たか、おまえも不思議に思っているだろうな?」)"という物語中で主人公の父親が言うセリフです。こう見ると印象はだいぶ変わりますね。

 

 

 この物語は主人公がレストランで両親が来るのを待つところから始まります。

 彼には頭を抱えるような問題が2つあります。それは彼の娘たちとの仲が上手くいかないこと、もう一つが両親のことです。前者は娘を持つ父親にはよくある問題かもしれません。より困難(というか状況を理解できない)な問題は後者の両親の問題です。なぜなら20年前、既に両親は亡くなっているのですから。

 

 主人公曰く、レストランに両親を呼ぶことは特別難しいことではないようです。強く願うこと、彼らが眠る場所に向けて強く呼びかけることでそれが可能になるのです。そんな力があるなら、使ってみたいと思う人は多いでしょう。まあ、ブラッドベリの作品ではどういった理屈で亡き両親と再会できたのかは重要ではないことですが。

 

 

 レストランのドアが開き二人が入ってきます。

 「久しぶり!」「元気にしてたかい?」といった他愛もない会話には妙によそよそしさを感じます。ブラッドベリの文体でもあり、翻訳された小説にはよくあることではあります。

 

 会話もあべこべなものです。

「なぜわたしらがここに来たか、おまえも不思議に思っているだろうな?」

「呼んだのはあなたじゃないでしょう、お父さん。彼が呼んだのよ、息子が」

 その後で父親は冗談だよ、と言いますが、両親をレストランに招待した主人公も主人公で、呼んだ理由を思い出せません。

 

 

 最後に、主人公はもう一つの問題である娘たちについての悩みを両親に打ち明けますが、父親は予想だにしない答えを告げ、彼らの食事は終わりを迎えます。

 

 

 両親との会話を通じて主人公の何が具体的に変わった、というのは正直わかりません。しかし、物事がプラスの方向にほんのちょっとでも進んだことは確かにわかります。

 

 

 主人公が抱えていた二つの問題だって、これもまた曖昧なもので、結局どうしたいのかすら本人にだってわからない気がします。 

 

 取り留めもない文章になってしまいましたが、一見不思議な設定や会話の中でしんみりとした印象を読者に与えるのはさすがはブラッドベリと言える名作です。