あるいは本でいっぱいの海

Or All the Seas With Books

主に書評ブログ。本、音楽、映画について書きます。

ロック大陸の物語(『醒めない』その1 スピッツ)

スピッツの15thアルバム『醒めない』についてのレビューです。

 

1. 醒めない

 アルバム同題曲で、アップテンポな曲です。

 ボーカルの草野さん、そしてスピッツというバンドとしての軌跡と、音楽への情熱を明るく歌い上げています。
 この「醒めない」という曲は、スピッツがまだまだ活動を続けていくという宣言のようにも聴こえます。

最初ガーンとなったあのメモリーに今も温められてる

 ブルーハーツのことかな?スピッツはインディーズ時代はパンクバンド路線でしたがブルーハーツを目指していたそうですね。

見知らぬ人が大切な人になり
相性悪い占いも余計に盛り上がる秘密の実

 この部分だって、見知らぬ人=現在のスピッツのスタイル(世間一般に持たれるロビンソンやチェリーを代表とした穏やかな曲。実際は激しい曲もたくさんありますが)であり、「相性悪い占い」というのも当時のバンドとしての路線変更のことではないでしょうか。
 これからもスピッツが「醒めない」まま活動を続けて欲しいと願うばかりです。

 

2. みなと

 2曲目はシングル曲「みなと」が収録されています。

 「遠くに旅だった君」を思い、「僕」は港にいる。

 哀愁漂う綺麗なメロディの曲だが、「君」が遠くへ行ってしまったことをただ悲しむような歌ではありません。
 会えないことを嘆く後ろ向きではなく、また会うことを願う前向きな歌なのです。

 また、ボーカルの草野さんはこの曲を出身地である福岡県の能古島という所をイメージして作ったそうです。

 能古島といえばコスモスの印象が強かったのですが、今では哀愁漂うこの曲のイメージも加わっています。

 

3. 子グマ!子グマ!
 それにしてもこのアルバムは変な名前の曲が多い。笑
 その中でも特にこの曲は際立っています。

「はぐれたら 二度と会えない覚悟は」

「幸せになってな ただ幸せになってな」

 2番までを聞いた感じだと、「みなと」同じような恋人との別れを歌った曲のようです。
 それもアップテンポなメロディで、その別れに後悔はなく、純粋に相手の将来を応援しています。

 Cメロ(それとも大サビ?)のコーラスで遂に「子グマ」が登場します。

子グマ!子グマ!荒野の子グマ
おいでおいでするやつ 構わず走れ
子グマ!子グマ!逃げろよ子グマ
暗闇抜けて もう少しだ

 この歌は、親離れする自分の子供(子グマ)に向けて歌っているようです。
 

 ちなみにスピッツのコーラスがある曲は個人的にお気に入りの曲が多くあります。「花泥棒」や「野生のポルカ」などなど。

 

4. コメット

 タイトルは彗星(Comet)の意味で、インディゴ地平線収録にも「ほうき星」という曲があったなぁ、なんて思っていたものですが、コメットという種類の金魚がいるそうです。その名前も尾びれが彗星のように長くゆらゆらとしていることが由来であるそうです。

 前作「小さな生き物」に引き続き、本アルバムも生き物をテーマにした曲が多いですね。

 

5. ナサケモノ

 ポケモンにいそうな名前のこの曲は、情けない獣=ナサケモノの歌です。
 そんな曲だけあって、曲中でも主人公?の情けなさが強調されています。しかし、そのことを悔やんでいる訳ではなく、前向きに現状を受け入れています。穏やかな曲調で聴いていて元気が出る曲です。
 かつて、運命の人では「優しいだけじゃなく偉大な獣」でしたが、それから20数年もすれば「情けない獣」だって登場する訳です。

 

6. グリーン

 本アルバム中でも特にお気に入りの一曲です。
 さわやかなイントロから始まるこの曲は、新しい季節を迎え、それまで上手くいってなかった日常から抜け出しすような、希望や自由を歌っています。
 たとえば2番ではスピッツにしては珍しく皮肉の込められた歌詞が入っています。

コピペで作られた 流行りの愛の歌
お約束の上でだけ 楽しめる遊戯

 しかし、そんな歌詞も気にならないくらいに前向きなサビのメロディが頭に残る名曲です。

 

7. SJ
 タイトルが何を意味しているのかはわかりませんが、この曲は『醒めない』の中では少し浮いているように感じます。その曲調も歌詞の種類も。

少しシリアスな曲調で、

夢のかけらは もう拾わない 
君と見よう ザラついた未来

と、これまでの曲で歌っていた希望を否定しています。
 3分ちょっとという短い曲であるにも関わらず、「これから前に進んでいこう」というこれまでの流れをあえて一度リセットするかのようです。

 この曲を折り返しにアルバムは後半へと続きます。続きは次回に。

 

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