あるいは本でいっぱいの海

Or All the Seas With Books

主に書評ブログ。本、音楽、映画について書きます。

転がる石のように(『堕落論』坂口安吾)

『堕落論』(集英社文庫)の表題作。裏表紙の紹介では 生きよ、墜ちよ。生の現実から目をそむけず、肯定せよ。堕ちることのほかに真に人間を救い得る道はない、と説く。 と書かれています。 書店には、のんびり、あるがままに、とかフリーランスでもやってい…

簡単そうで難しい問題(『恐竜のほかに、大きくなったら何になりたい?』レイ・ブラッドベリ)

「恐竜物語」レイ・ブラッドベリ(新潮文庫)に収録されている短編小説です。それにしても、何て素晴らしいタイトルなんでしょう(笑) 主人公のベンジャミン・スポールディングは恐竜が大好きな12歳の少年です。友達に「大きくなったら何になりたい?」と聞…

解なしという答え(『冷たい方程式』トム・ゴドウィン)

「冷たい方程式」トム・ゴドウィン他 (ハヤカワ文庫)に収録されている短編小説。その異様なタイトル通り、宇宙船で展開されるなんとも悲しく、残酷な物語です。 一人用の宇宙船に一人のパイロットが乗っているはずでした。彼は熱病で苦しむ6人の仲間を救う…

ウェンディの夢の国(『ピーターパンの島』星新一)

『悪魔のいる天国』(新潮文庫)収録のショートショートです。ウェンディという女の子が主役であり、ピーターパンの島というタイトルはその名の通りネバーランドを連想させます。 以下は簡単なあらすじです。 ウェンディは海賊船に乗っています。同じ船に乗…

カンガルーにうってつけの日(『カンガルー日和』村上春樹)

聞くところによると、今の高校の教科書には村上春樹の小説が載っているんですね。偶然機会があって、なんとこの「カンガルー日和」が掲載されていることを知りました。 教科書に載せて学校の授業で扱う以上、試験をする必要が出てきます。ということは、その…

To BE CONTINUED…(『REFLECTION』その3 Mr.Children)

Mr.Children『REFLECTION {Naked}』最終回です。「WALTZ」から「未完」までのレビューです。 16.WALTZ 全曲に続いてダークな曲。ライブでの映像が好きでした。マグリットの「ゴルコンダ」のような、次々と振るいおとされていく人たち。「繰り返される審査(テ…

いつの日か君のベートーベン(『REFLECTION』その2 Mr.Children)

前回に引き続き、Mr.Children『REFLECTION {Naked}』のその2です。 8. 放たれる 美しくも、力強い曲です。 たんぽぽが綿毛を空一面に飛ばすような情景が浮かびます。心や気持ちがゆっくりと解放されていくような気分になる曲です。儚いメロディながら壮大な…

全ての闘う人に(『REFLECTION』その1 Mr.Children)

Mr.Childrenの18thアルバム『REFLECTION {Naked}』の感想です。3回に分けて全曲分書きます。 1. fantasy BMWのCMで流れていただけあり、疾走感のあるイントロから始まる曲。 夢の国だったり妖精が出てきたり、というものではなく、あくまで現実世界での日常…

Life Is an Open Door(『掟の門』フランツ・カフカ)

『カフカ短編集』(岩波文庫)に収録されている短編です。たった4ページの物語ですが、寓意性が高く様々な解釈ができます。 あらすじは以下になります。 掟の門前に門番が立っていた。一人の男がやって来て、入れてくれ、と言うが、門番は今はダメだという。 …

選択は想像である (『選択の科学』シーナ・アイエンガー)

これは「選択」に関する本です。 原題は"The Art of Choosing"で、直訳すると「選ぶというアート」となります。また、artという単語には技巧、技、腕といった意味もあるようです。 ジャムの研究 著者シーナ・アイエンガーさんは「ジャムの研究」で有名な方だ…

巻き戻しの海を(『醒めない』その2 スピッツ)

前回に引き続き、スピッツ『醒めない』の感想の後半です。 8. ハチの針 前曲のアウトロから少し間をおいて、この曲は始まります。 ハチミツではなくハチの針。カタカナ表現でちょっと可愛い気のあるタイトルですが、いたってクールな曲調です。 歌詞はという…

ロック大陸の物語(『醒めない』その1 スピッツ)

スピッツの15thアルバム『醒めない』についてのレビューです。 1. 醒めない アルバム同題曲で、アップテンポな曲です。 ボーカルの草野さん、そしてスピッツというバンドとしての軌跡と、音楽への情熱を明るく歌い上げています。 この「醒めない」という曲は…

奇妙な親孝行(『二人がここにいる不思議』レイ・ブラッドベリ)

ブラッドベリの短編集『二人がここにいる不思議』(新潮文庫)の表題作です。 恋愛小説を思わせるような美しいタイトルですが、この物語における「二人」とは主人公の両親のことです。主人公の「おれ」が、既に亡くなっている両親をレストランに招待する話な…

心の崩壊と宇宙の誕生(『ゴルディアスの結び目』小松左京)

この小説のタイトルであり、重要なモチーフである「ゴルディアスの結び目」とは下記のような意味を持つそうです。

毒虫になった男の話(『変身』フランツ・カフカ)

ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫になっているのを発見した。 この有名な出だしから始まる小説はフランツ・カフカの『変身』です。

真の冒険家の話(『緑の扉』O・ヘンリ)

「緑の扉」はO・ヘンリ作の13ページ(新潮文庫 O・ヘンリ短編集(一) 大久保康雄訳より )の短編で、「真の冒険家」ルドルフ・スナイダーの物語です。 冒険家とは言っても、大海原を航海するでもなければ、人類未踏の地へ行くわけでもありません。彼の冒険の舞…

人間とは何か(『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック)

映画「ブレードランナー」の原作である、フィリップ・K・ディックの長編SF小説。 まず特筆すべきなのは、そのタイトルの素晴らしさ!ディック作品では「流れよわが涙、と警官は言った」と並ぶ良タイトルだと勝手に思っています。SF作品、その中でも海外の作…

メイキング・ショートショート(『できそこない博物館』星新一)

星新一さんのエッセイの中でも特にお気にりの一冊。千編以上のショートショートを書いてきた著者自らがその創作メモ、ボツになった作品について紹介し、考察・解説していくというファンにとっては非常に嬉しいエッセイ集です。