あるいは本でいっぱいの海

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主に書評ブログ。本、音楽、映画について書きます。

ポスト2045年問題(『過渡期の混乱』星新一)

 「さまざまな迷路」(新潮文庫)収録のショートショートです。タイトルからも分かるように、何か新しいものが生まれることで生じる、人々の混乱の様子を描いています。

 

いつのころからか、街頭にキャンディー売りロボットがあらわれるようになった。

 という書き出しでこの物語は始まります。キャンディー売りというものを私は見たことはないのですが、舞台はおそらく未来の話です。このロボットの姿についての描写はほとんどありません。わかるのは、愛嬌があって人型をしているということだけです。星新一らしいですね。

 ある日、パトロールをしていた警察官が、キャンディー売りをしているのがロボットだとは気づかず、禁止されている場所で商売をしているということで罰金を取り立ててしまいます。ロボットは文句も言わず、すぐにその警察官に罰金を支払います。

 罰金を取り立てた後になって初めて、キャンディー売りがロボットだったということを知ります。だからと言って、ロボットには禁止地域で商売をすることを認めるという決まりなどありません。上司に相談をした結果、ロボットの持ち主にあたってみるべきだ、という話になりました。

 翌日、警察官はロボットを探し出し、持ち主が誰かを訪ねました。ところがロボットは、「所有者などいない」と答えたのです。
 これは困ったことだ。だからと言って、所有者がいないから責任はどこにもない、なんてことにはできません。

 税金関係の役所はどうにかして税金の取り立て先を考えます。
いったい責任はどこにあるのか?ロボット自身、ロボットの製造メーカー、仕入れ先のキャンディー会社などなど。

 また、キャンディー売りが持っている現金狙いで、ロボットが破壊されてしまうという事件が起こることもありました。やはりこのときもどういう対処がなされるか決まっていませんでした。

 

 やがて、ロボットに人権が与えられるようになると、賢い人たちはどう立ち回るのでしょうか。彼らにはロボットには真似しようのないあるものを持っています。

ずるさという、人間だけの持つ天与の能力。これある限り、ロボットなど恐るるにたらずだ。 

 

 「2045年問題」や「AIに奪われる職業ランキング」なんてものがありますし、その他多くの星新一作品(というよりかはSF全般)でも意思を持ったコンピュータの言いなりになる未来が数多く描かれています。そんな中で、この『過渡期の混乱』はある意味では希望のようでもあります。この作品が発表された当時の背景も気になるところです。

 

 計算機や車のように、人間の役に立つための道具はこれからも作られていくことは間違いありません。しかし、果たして人間は、自分たちよりもはるかにすぐれた、「完全なる上位互換」の存在を許すことができるのでしょうか。それともこの物語の結末にもある「ずるさ」というものが人工的に作り出される日が来るのかどうか...

 

 理屈ではない何か別の理由で、AIというものの進歩の前に壁が立ちはだかる、なんてこともあるのかもしれません。

 

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