あるいは本でいっぱいの海

Or All the Seas With Books

主に書評ブログ。本、音楽、映画について書きます。

選択は想像である (『選択の科学』シーナ・アイエンガー)

 これは「選択」に関する本です。

 原題は"The Art of Choosing"で、直訳すると「選ぶというアート」となります。また、artという単語には技巧、技、腕といった意味もあるようです。

 

ジャムの研究

 著者シーナ・アイエンガーさんは「ジャムの研究」で有名な方だそうです。これは、あるスーパーマーケットで行われた実験です。店頭で売られているジャムの種類が多いときと少ないときを比較し、売り上げがどのように変わるかを調べたところ、ジャムの品揃えが少ないときの方がお客さんがジャムを買う確率が高いことが分かったのです。この実験によって、選択肢が多ければ多いほど良いとは言えないということ。そして、多すぎる選択肢が悪影響をもたらすということが提示されています。

 

選択に対する考え方

 この本で紹介される事例は、身近なものから国や地域に関する広いものまで様々です。その中でも大変興味深い研究として、日本とアメリカの大学生を対象にした「選択」と「生活背景」の関係についての調査結果があります。

 

 日本とアメリカの大学生に対してそれぞれアンケートを行いました。

 アンケート用紙の表側には「自分で決めたいこと」、裏側には「自分で決めたくないこと・誰かに決めてほしいこと」を好きなだけ書いてくださいと書かれています。

 

 日本の大学生とアメリカの大学生の回答を比較したところ、なんとアメリカの大学生は表面に日本の大学生の4倍ほども書いていたのです!そして裏面には日本の大学生はアメリカの大学生の2倍も書いていました。

 

 この結果から、「選択に対する考え方」はその文化的背景の影響を受けるということが示唆されています。

 今日では日本でも、選択することが良いことでしないのは悪いこと、といった風潮が強くなっているように感じますが。

 なお、本書ではこの2つの「選択に対する考え方」に対して優劣はつけていません。そもそもこれらは歴史的・文化的背景と切っても切れない関係があり、どっちが良いかを決めることはナンセンスとも言えそうです。

 

最善の選択をするために                                         

 より適切な選択をするためにはどうすれば良いのでしょうか?そのためには判断するための十分な知識・経験を持つことが最善の選択への第一歩となります。

 

 とはいえ、どうしても自分が知らない分野について選択を迫られる場面は多々あります。自分の知識が十分ではないことを知っているため、選択肢に漏れがないかばかりを気にしてしまうものです。選択肢をさらに広げることにばかり考えが向かってしまい、「ジャムの実験」のように、さらに選択が困難になる、ということがありがちです。

 「判断の一端を他者に委ねること、あるいは自分の行動に制約を加えること」が重要であると著者は言います。何もかもの判断を他者に任せるのはダメですが、「餅は餅屋」ということわざが意味する通り、全てを自分で判断する必要もないのです。

 

選択の創造性

 この本で一番印象に残っている言葉が、「選択とは、発明することなのだ」というものです。フランスの数学者、アンリ・ポアンカレの言葉「発明とは、無益な組み合わせを排除して、ほんのわずかしかない有用な組み合わせだけを作ることだ。発明とは見抜くことであり、選択することなのだ」に対して著者はこう唱えています。

 

 この本を読む前は「選択する」とは、あるものの中から選ぶことで、少なからずは制約を受けているという受動的な印象がありました(ちなみに「選択する」という行為にも2つの種類がある、ということについても本書中では説明されています)。

 「選択」についてたくさんの事項を取り上げていて、面白い実験や研究結果が紹介されている本でした。また時間をおいて読み返したいと思っています。